染色体検査告知に関しての医療関係者への提言
2003年10月11日更新
 
はじめに
 私たちFLCでは、染色体検査告知調査委員会を設置し、染色体検査に至るまでの過程および検査告知について実態調査を行い、この度「染色体検査告知に関しての医療関係者への提言」としてまとめました。
 最近、染色体検査という特殊検査が容易に行われ、その結果について医療従事者が十分に理解していないため間違った情報を提供したり、告知のときに家族の気持ちを傷つけたりすることがあります。このような背景のもと、当事者にとって少しでもよい方向へ向かうよう、以下10項目を医療現場へ提言致します。
 
FLC染色体検査告知調査委員会
正会員(親)調査委員
石塚幸枝 北澤一彦 佐藤繁子 早川幾代 本多睦美 森定玲子 山口勝也
山口静香 渡辺美和子
 
賛助会員(専門医)調査委員
石井拓磨 今泉清 岩崎圭子 大橋博文 川目裕 木村順子 古庄知己
中村美保子 沼部博直 福原里恵 松尾真理
 
 1.染色体検査が必要だと判断したときは、親にその理由をきちんと説明し、
   同意のもとで行ってください。
 子どもの親がいない、疾病を患い意識がない、死亡しているなど特殊な場合を除いて、必ず親に染色体検査の説明をし同意を得るようにしてください。「染色体」とはどのようなものか、普通の血液検査とはどのように異なるのかということをきちんと説明してください。検査の必要性について何の説明もなく検査が行われ、結果だけ突然に知らされると、医療不信に親は陥ります。子どものことは夫婦の重要な問題です。説明は可能な限り両親そろった場で行ってください。ひとり親の場合は、聞き違いや誤解が生じるのを防ぐという意味でも、親の信頼する近親者が同席することで複数になることが望ましいでしょう。

 2.染色体検査を行う場合、結果のいかんにかかわらず、
   告知方法・フォローまで責任を持ってください。
 大事なことです。検査結果は、子どもと親の人生を左右する程大きな影響を持ちます。これからの子どもと親の長い人生のことを考え、言葉に対して責任を持ってください。検査をするだけで、フォローがなければ、親は何のために検査をしたのかわからず、「医師に見放された」と感じます。子どもの治療はもちろんのこと、親のこころのケアも大切です。検査結果によっては親に大きなショックを与えることになります。近親者にも大きな影響を与えることもあります。検査を行う以上、それらのフォローが必要になることを理解してください。継続的にフォローを行えるように尽力してください。告知や告知後のフォローを自らが十分に行えないと判断した場合には、責任を持って的確な臨床遺伝専門医を紹介してください。

 3.染色体の検査結果の伝え方については、あらかじめ親と相談してください。
 染色体検査の説明の段階で、あらかじめ、検査結果は両親そろって受けてもらう約束をしてください。親を飛び越し、祖父母や親戚に先に告知するようなことは決してしないで下さい。「うちの家系には・・・」「母親のせいだ」「父親のせいだ」などの言われなき非難を受けることになり、母親や父親が傷つくことがあります。ひとり親の場合は、親の信頼する近親者が同席することで複数になることが望ましいでしょう。

 4.親に説明する際には、難しい医学用語を避けて、わかりやすい言葉を使い、
   説明内容をまとめたメモや資料等を渡してください。
 ほとんどの親は初めて受ける検査です。「染色体」という言葉に馴染みのない親が大部分です。染色体検査を勧められた時は、子どもが障害を持っているかも知れないという事実を突きつけられて、動揺している親もおります。検査結果の告知の時は、告知の内容によって、親が受ける衝撃は計り知れません。難しい医学用語を避けて、できるだけわかりやすく説明してください。
 1度聞いただけでは十分に理解できないこともあります。後で読み返すことができるように、自分でも調べられるように、メモや資料等を渡して下さい。告知の際には、検査結果のコピーもお願いします。

 5.説明の後、親に質問の機会を作ってください。
 告知の際には、ショックのあまり、どんな質問も頭に浮かばないことがあります。その時はわかったつもりになっていても、後で理解できていないことに気がつくこともあります。説明や質問に答える機会は数度にわたって用意して下さい。多くの親は医療従事者との間に、本来はあるべきではない上下関係を感じています。なかなか質問を切り出せずにいることもあります。「何かわからないことがあったらいつでも質問してください」というようなことを、医師に言ってもらえると嬉しいです。親から希望がある時はもちろんのこと、特に親が希望しない場合であっても、質問の機会を医療サイドから用意するようにしてください。

 6.検査結果の告知の際、専門医療機関や専門医、療育機関、カウンセラー、親の会などの
   情報も提供してください。
 告知は単に医学的説明をすれば良いというものではありません。既にこの時カウンセリングを必要とします。検査結果の告知は是非、臨床遺伝専門医から受けられるようにして下さい。それが無理であれば、セカンドオピニオンを得られる医療機関を紹介してください。
 子どもの障害や疾病によっては、専門的な治療を必要とすることもあります。適切な専門医や専門医療機関を紹介してください。障害が重くても早期より療育を受けることによって、子どもの日常生活動作が改善されることもあります。親に希望を与える上でも、どのような療育機関があるのか教えてください。その際、決して「見放す」のでも、「たらい回しにする」のでもなく、「引き続き見守っていく」という態度を示してください。
 親は「自分の子だけ」「自分達だけ」と孤独感をため込みがちです。孤独に打ち勝つことができるのは、自分だけじゃないということがわかった時です。「1人ぼっち」ではない、他にも頑張っている子ども達や親がいることを教えてください。どんなに冷静な顔をしている親でも、心の中はパニックに陥っているものです。早目早目にカウンセラーも紹介してください。

 7.子どもの治療だけでなく、親のこころのケアも大切にしてください。
 親のこころが乱れていると、子どもをどのように育てていけばいいかわからなくなります。こころが落ち着くと、子どもの障害をありのままに受けとめ、前向きに子育てができるようになります。
「こころのケア」はカウンセラーだけが担うことではありません。親の悲しみ苦しみに耳を傾けてください。悲しみや苦しみを和らげるような言葉を掛けてください。最初に親が一番頼りにするのは医師なんです。期待を裏切らないで下さい。「一緒に頑張っていきましょう」といった態度を示してください。また、子どもの障害について、親は必要以上に責任を感じて苦しんでいます。「誰のせいでもない」ということを伝えてください。

 8.同じ言葉でも、その時の状態や、親の性格等によって、
   受け取る印象は全然違ってくるということを頭に入れていてください。
 「稀少」「特殊」「わからない」という言葉に不安を覚える親もいます。子どもの症例について、正確なことがわからなければ、率直に「わからない」と伝えて欲しいと思う親もいます。検査結果については良いことも悪いことも全てありのままに話して欲しいと思う親もいます。希望を持たせて欲しいと願う親もいます。相手に応じて適切な対応をお願いします。「傷つく言葉を避ける」、「励ます言葉を覚える」というように、このHPに書かれている内容をマニュアルのように利用することは決してなさらないでください。

 9.子どものプライバシー保護について配慮してください。
 同室者がいる病室、カーテン一枚で隔たれた診察室、廊下などで告知をされると、親は誰かに聞かれるのではないかと不安を覚えるものです。告知の際、同席する医療従事者も限定してください。検査結果の内容によっては、近親者にも大きな影響をあたえることになります。子どものプライバシー保護について配慮してください。なお、子どもの症例報告については、親の同意を必ず得てください。

10.どんなに重い障害を抱えていようとも、生まれてきた命、あるいは生まれてこようとする
    命を祝福してください。
 新たな命が誕生する、あるいは誕生したのです。「おめでとう」の一言が嬉しいです。告知の際、他の病気、障害の重い軽いなどで、比較して幸不幸を語る励ましなどは避けてください。どのように合併症、奇形部位の多い子どもでも、人間です。「人」として接してください。特定の「言葉」が問題なのではありません。子どもに向き合う時、ご自身の「人間性」が問われるのです。

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